金髪の孺子と赤毛のボウヤとその彼女達

銀英伝ライキルでその嫁との妄想にふけたり、我が国のミリな制服や乗り物に萌えるブログ(のハズ)

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三十八度線攻防戦-2-/紅野政樹

今や戦場は、大混戦を見せていた。
 帝国軍が三十八度線に潜んでいることを知った同盟軍は、次々と間断なく峡谷の向こう側から爆撃弾を撃ち続けていた。
 すでに峡谷と峡谷の細い道、数カ所を通って、同盟軍の装甲タンク部隊は帝国陣営へと進んでいたため、ここで帝国軍に待ち伏せをされていたのでは、破壊的ダメージをうけることは明らかだったからだ。
 帝国軍はあいかわらず作戦の連動が弱く、装甲タンクが爆撃弾から逃げ回っているというのに、帝国軍後衛からの援護は全くなかった。
 戦場は音の洪水に満たされ、帝国・同盟全兵士は、全ての人工による目も耳も奪われ、原始の力、つまり自分自身の肉眼と聴力のみで、戦闘を展開しなくてはならなくなった。
 帝国陣営へと踊り込んできた、同盟軍の装甲タンクも応戦を始め、帝国軍はそれを迎え撃ちながらも、空から降りてくる爆撃弾をかわす、という芸当を見せなくてはならず、臆病者たちは次々とシュラハーデンに習って、装甲タンクを撤退にかかっていた。
 しかし、そんな計画性のないことをすれば、同盟軍殲滅のために仕掛けた囮に、自らがかかってしまうことさえ忘れ、最終的に同盟軍の攻撃に、味方陣営を踏みにじられるだけだった。
 総指揮官自らが、猛ダッシュで陣形を乱しにかかっているのだから、状況は収拾を見せそうになかった。
 キルヒアイスは、空からシュルシュルと不気味な音をたて落ちてくる爆撃弾を慎重に回避しつつ、土くれと爆煙の舞い上がる中を駈けた。
 ほぼ直線を描いて、東西へと伸びる峡谷に平行して西へ走る。
 ラインハルトの方は、打合せ通り東へと走っているはずだった。
 途中、何度かレイ・ガンを構え、その卓抜した腕前を見せて、同盟のタンクを爆破した。
 破片が飛んでくるのを、腕をあげて頭を庇う。ヘルメットをあえて被らなかったのは、レイ・ガンの照準を、自分の肉眼にのみ頼らなければならないこの戦場では、邪魔になるだけだったからだ。
 キルヒアイスは身を低くして走りながら、目的の装甲タンクを見つけると、それに向かって駈けた。
 サンドカラーの車体に、部隊指令官を示す緑の三線が引かれたタンク。
 独特な、鈍い動きをするタンクへと、手を延ばし、把手をつかむと身軽に飛び乗った。
 そして、ハッチの信号開閉装置へと、自らの手首にはめた発信器から、識別 信号を送った。
 ほどなくしてハッチが開くと、中から、耳の下から顎まで、ふさふさとした髭をはやしたロード大佐が顔を覗かせた。
「大佐」
「キルヒアイス中尉か。右翼からその姿でやってきたのか?ここまで」
 駈けてきたのがありありとわかり、あまりのキルヒアイスの無謀さに、その勇気を讃えるのを通 り越して、呆れ顔のロードだった。
 キルヒアイスは無言で、肯定する笑みを浮かべただけだった。
 ロードはひとつ息を吐くと、赤毛の彼に問うた。
「それで、右翼の方はどうなっている?中央はシュラハーデン准将が後退したので、瓦解したようなものだが」
 憂い顔の壮年の大佐は、言葉ほどには慌てている様子もなく、落ち着いていた。
「僣越ながら、大佐へお願いがあります」
 真摯なブルーの瞳で見つめられた時、ロードは一瞬、この二○才以上年下の、まだ少年の域を脱していない赤毛の中尉に、気圧され たような気がした。
 気を取り直し、うなずく。
「良いだろう、云ってみろ」
「はい。このままでは我軍に勝利はないことは、聡明な大佐殿にはおわかりいただけると思います。そこで私の上官がたてた作戦に切り換えたいと思うのですが。いかがでしょうか?」
「お前の?ミューゼル少佐か」
 荒らくれの平民出のロードは、あまり口が良いとは云えない口調で呟きながらも、キルヒアイスに先を促した。
「実は私とミューゼル少佐で、昨夜、峡谷の東端と西端へ爆雷針をたて、その後二十メートル間隔で、PNS破壊弾を設置してきたのです」
「……なん…だと…」
 さすがの実戦経験豊かなロードにさえ、絶句させた。
「いつ……いや、どうしてそんなことが」
 タンクの数メートル先に、爆撃弾が落ち炸裂した。
 雨のように土塊が降り落ちてくる中、キルヒアイスはにっこりと微笑んだ。まったくこの状況下では、不敵に映るキルヒアイスの笑顔だった。
「二人で、東西に分かれて峡谷を登り、設置してきたのです」
 惚けたように、ロードは口を開けたまま言葉が継げない。
 確かに、動力音は感知センサーにキャッチされるだろうが、生身の人間が動き回る些細な音までは、いくらセンサーでもカバーしき れない。まして、単独で険しい岩山を登っていくなどという、そんな無謀なことを、考えつく者がいるとは。
「いいだろう」
 ロードの沈黙は一呼吸の間だけだった。
 軍人ならとか、本部の指示を仰ぐとか、階級がとか、つまり、この戦闘まっただ中の今、そんな形式を並べ立て、多くの味方兵の命を落とすような愚行を、ロードはしなかった。
「そちらの作戦を聞こう」
「はい。ロード大佐左翼は、極力三十八度線から同盟軍を引きずりだせるよう、退けるだけ西側へ後退して下さい。右翼もそれに連動して東へ後退します。そして、今から十分後に信号弾を打って下さい。私が西の爆雷針を、東はミューゼル少佐がスイッチをオンにします」
 ロードはその顎髭を右手でひとなでした。
 その作戦が成功すれば、どういう図が描かれるのか、的確に予想できたからだ。
「お前ができるのか」
「ここまで生きてやってきました」
 レイ・ガンをポンと手で叩き、キルヒアイスは答えた。ロードは大きくうなずく。
 戦場での判断は迅速に行わなければならない。
「時間合わせをしよう」
 お互いの軍用時計の時刻を合わせると、キルヒアイスは後はもう何も云わずタンクから飛び下りた。と同時に、またしてもシュルシュルと云う音と共に、爆撃弾が落ち、土煙が猛然とあがる。
「大丈夫か!」
 タンクの上からロードの声がするのに、声だけで答えてキルヒアイスは走り出した。
「はい。行きます!」
 

 キルヒアイスは走った。
 太陽はまだその姿を見せることはしていないが、辺りは完全に明るくなっている。
 赤毛を朝風が弄んで吹き抜けて行く。
 例の、昨夜ラインハルトと共に設置した、爆雷針の場所を頭の中で反復する。それは二人の記憶力にかかっていた。
 誰にも知られないように埋めてきたのだから、そうやすやすと見つかりはしない。
 しかしキルヒアイスは数瞬も躊躇うことなどしなかった。
 彼の記憶の脳細胞は、昨夜埋めた場所を的確に知らせた。
 あたり前だ、自分たちはこんなところで、もたもたしていたり、命を落としている場合ではなかった。彼とラインハルトはこの先、宇宙を手に入れなければならないのだから。
 装甲タンクはロードの指揮の下、敗走を装って後退していき、力を得たように同盟軍はそれを追って、次々と峡谷の細い道を通 り、三十八度線を越えてくる。
 混乱する戦場の中、冷静に全戦況を見定める者がいれば、それは混乱ではなく、帝国軍の誘導作戦だと気づいたろうが、同盟軍内にそれを成しえる人はいなかった。
 キルヒアイスは岩影からレイ・ガンを構えて、呼吸を整えた。
 ヘルメットを被らないので、ピタリと標準があう。
 ほとんど視認さえできない目標物だったが、卓抜した能力が、キルヒアイスに不安を与えなかった。
 同盟軍の爆撃弾の落下はぐっと少なくなった。
 それは峡谷を越えて同盟軍が攻め入っているからで、爆撃弾によって同仕打ちをしないためだった。
 タンクがキャタピラを回して進んでいく。
 何百という敵味方の装甲タンクが巻き上げる砂煙りが、もうもうと大気を埋め尽くす。
 そして、信号弾があがった。
 白く尾を引く煙玉が、白々とした空に弾け、緑色の煙を描いた。


 キルヒアイスは最後にもう一度呼吸を整えると、ぐっと息をとめ、構えたレイ・ガンのトリガーを引いた。そして素早く、岩影に身を隠す。
 ドンという音が、西と東で大きく鳴り響き、次に双方から連動して、次々と壮絶な音をたてて峡谷の山々が崩れて行った。
 それは一種、壮観とさえ云える光景を見せていた。
 決してもろくない岩山を、爆雷弾が突き崩し、そして進行しようとしていた同盟軍の装甲タンクを次々と飲み込んでいったのだ。
 三十八度線を越えて、すでに帝国陣営に入っていた同盟軍の装甲タンクの兵士たちは、味方のそれが岩山に押しつぶされていき、また退路を絶たれたことに戦慄した。
 ロードはその同盟軍の動揺を見逃さなかった。一気に孤立した同盟の装甲タンク部隊を、包囲殱滅にかかった…。


 バイカシオの太陽は、やっとその姿の一部を遙か地平線の向こうに見せていた。
 つい、一時間ほど前には三十八度線に悠然と立ち並んでいた、峡谷にはばまれ、見えはしなかった光景だった。
 自らの手で、その岩山を瓦解した二人の少年は、その岩山の残骸の上へと登り、朝日を浴びて立っていた。
 地上では、大佐たちが指揮をとり、同盟の捕虜を取り調べている

「同盟の奴ら、泡を食って逃げ帰ったな」
「ラインハルト様の勝利ですよ」
「ふん。あのやっかいな准将の鼻先も、へし折ってやったしな」
 にやりとラインハルトは口許で笑った。
 キルヒアイスもくすりと、声たてて笑う。
 その二人の背後から足音が聞こえ、二人は笑みを引っ込めて、同時に振り返った。
 そこには、髭面のロードが立っていた。
「ロード大佐」
 ラインハルトとキルヒアイスが敬礼を送る。
「ミューゼル少佐、キルヒアイス中尉、御苦労だったな。これほど見事な繊細にして豪快な作戦展開は、今まで見たことがない」
 そう云って、ロードは顎髭をなでると、声高く笑った。
「我等がシュラハーデン准将閣下の勇敢さには、恐れ入ったがな……」
 皮肉にそう云い、ロードは続けた。
「俺は、今回の作戦については、うそも偽りもなく上層部に報告するつもりだ。ミューゼル少佐、少佐なら自らの実力で昇進していくだろう。きっと、すぐ、俺など追い抜いてな」
 つい先だってまでの、ラインハルトやキルヒアイスに持っていた悪感情を恥じたような仕種で、ロードはひょいと軽く敬礼を返すと、年若い少佐とその彼の副官に背を向け、岩山を降りていった。
「次は、宇宙へ出ることができるかな」
「そうですね」
 見送っていた視線を、空へと向ける。
「あ…痛……」
 急にラインハルトは頬を押さえて、眉をしかめた。
 その様子を見ていたキルヒアイスは、手に持っていた箱を小さく、掌の上でぽんと浮かせた。
「これ、当分おあずけですね」
「……」
 キルヒアイスは後生大事に持っていたアンネローゼのチーズケーキの箱を、しみじみという風に見やった。
「でも、真空パック処理をしてありますから、当分の間はもちますし、ゆっくりいただきましょうね」
「キルヒアイス」
「基地に戻ったら、すぐに医療部へ行って、虫歯の治療をしましょうね」
「キルヒアイス」
「当分甘いものは控えて下さい」
「キルヒアイス!お前だって、俺と同じ物を食べてるくせに!」
「何故でしょうね」

cut-38-2.jpg



 朝日が映える空に、救援部隊のヘリが、プロペラ音をたて近づいてくるのが見えた。


 三十八度線攻防はこうして終わりを告げた。
 この後、ラインハルトとキルヒアイスは望み通り、宇宙へと羽ばたき、頂点へと駈け昇っていくことになる。

                    ENDE.

        1991100111:15P.M.
        1992061719:58 改稿
        20020828.

 

+++++++++++COMMENT+++++++++++

 は、恥ずかしいです。この小説は遥か昔、そう10年以上前に、秦広さんの本にゲスト原稿させていただいたものです。
 今回、手直ししましたが、読んでてもうびっくり!です。キルヒ、そしてライちゃん、あんたたちなんてとんでもない作戦を考え出すの……って感じです。
 いやもう、戦闘シーンもめちゃ嘘くさいし、ほんとっ、とんでもない話です。
今なら、もう少しマシな戦闘場面を書けたんじゃないかなーと、反省もひとしお。
 でも、秦広さんにイラストカット入れてもらったんですよね。そのカットのイラストは、よ―く覚えてます。
いまだにその話で盛り上がれるもんね、秦広さん!
 とにかく、赤金です。笑ってください!
                       紅野政樹



 紅野さん、懐かし(すぎる?)い原稿を載せさせていただいて、ありがとうございました!
 あのカットは、どー見ても、不良ラインハルトに、説教する体育教師にしか見えませんでした(爆)よね!後、ランチャーかついで、赤い髪を振り乱し…いやいや、風になびかせながら雪原を駆け抜けるキルピーを一生懸命描いた記憶が…(笑)(<GUTEN TAG! FINAL)
 久々に読み返して、まだワカゾウなキルP-のカッコよさにクラクラしてしまいました!
私も、もっとカッコイイキルヒを描いてあげないと!と、思います!



20101117追記
おっそろしく昔にいただいた小説…(笑)
紅野さんの書かれるライキルはなかなかかっちょ良くてアクティブで大好きでした。
1991年ていつの話だよーッ?!(大爆笑)
カットの絵は多分2002年のものだと思われます。
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