金髪の孺子と赤毛のボウヤとその彼女達

銀英伝ライキルでその嫁との妄想にふけたり、我が国のミリな制服や乗り物に萌えるブログ(のハズ)

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★悪の秘密結社に関する一考察★ 猫屋 真

猫屋 真

「最近はこういう番組が流行<はや>っているのか?」
『……宇宙征服のためには手段など選ばぬ』
ラインハルトの声に、いかにもそれらしいバックグラウンド・ミュージックを伴っただみ声が重なり、ヒルダは首を傾げた。
「どうなさったのですか、ラインハルトさま?」
読んでいた本を閉じ、ヒルダはラインハルトの書斎を覗き込む。
とっくに入浴を済ませてガウン姿にでもなっていると思ったラインハルトが、食後の格好のまま、ソファに身を沈めて3DTV<ソリヴィジョン>に見入っている。広い画面一杯に、けばけばしい衣装を着けた『悪の秘密結社』の首領のバスト・ショットがズームアップされていた。
ソファに腰を下ろしたラインハルトの膝に頭を預けて、アレクがすやすやと寝息を立てていた。どうやら、父<ラインハルト>と一緒に3DTV<ソリヴィジョン>を見ている内に眠り込んでしまったらしい。
「どうなさったんですの、こんな時間に?」
すでに時計は『お子さまはお休み』の領域に入っている。この手の『お子さま向き勧善懲悪、悪の秘密結社対正義の味方チーム』番組がオンエアされる時間ではない。
「おとといの閣議でゼーフェルトから聞いたのだ」
学芸尚書の名をラインハルトは上げた。
「自由惑星同盟< フリー・プラネッツ >の影響かも知れぬが、最近の子供向きTV番組の低俗化が進んでいる、嘆かわしいとな」
「まあ……」
「雑談だったからな。気にもとめなかったんだが……」
不意に思い出して、帝国資料アーカイブから最近放映されたこの手の番組を一〇本ばかり立て続けに見ていたのだと言う。
何も夕食を済ませるなり、そんな研究に夢中にならなくても……と呆れてもいいヒルダだったが、口に出たのは別の言葉だった。
ヒルダが案じたのは、ゼーフェルトが愚かな人物ではないからだった。人格・見識・能力とも、ラインハルトの内閣を支えるのに不足のないゼーフェルト学芸尚書である。TV番組の低俗化を云々するのは、最高権力に近い立場の人間として軽々しく口にするべき言葉ではない。低俗化が事実だとしても、その善悪を権力者側が決めるのでは、かつてのゴールデンバウム王朝や、末期の自由惑星同盟と変わらなくなる。
「それで……いかがでしたの?」
「それが……」
およそ皇帝<カイザー>ラインハルトに最もふさわしくない仕草があるとすれば、これかも知れない。困ったように豪奢な黄金色の髪の毛をかき回して口ごもったのだ。
「ラインハルトさま?」
「それが……分からないのだ」
「は、い?」
「予が子供の頃はソリヴィジョンなど見ている暇もなかったから、これが昔からなのか、変わってきているのかさっぱり分からない。どうなのだ、ヒルダ? 貴女が子供だった頃と比べてどうなんだろう?」
「は……ええ、あのぉ……」
ラインハルトが彼らしくもなく、所在なげに髪をかき回した理由がヒルダにもはっきり分かった。髪の毛をかき回したくなったのは、今度は彼女の方だったのだから。
「あの、わたくしも……子供の頃は余り……」
一〇代前半の少女時代、『可愛くなくてもいいもん』と読書と野歩きにばかりしていた。一〇代後半になると、ますます軍事や政治の研究にのめり込み、いわゆるマス・メディアとはあまり縁のない生活を送っていたのだ。七、八歳くらいまでは子供向け番組を見ていたような記憶もあるが、ヒルダの記憶力をもってしても、当時の記憶の細部を掘り起こすのは容易ではなかった。
芯からおかしそうにラインハルトは笑う。
「そうか、貴女もソリヴィジョンどころではなかったのだな」
「ラインハルトさまがいけないのですわ」
「なにがいけないのだ?」
「ラインハルトさまがあまりに面白い世の中をお作りになりましたから、ソリヴィジョンや映画などはかえって作り物めいてしまって楽しめなくなってしまいました」
一本取られたな―――もう一度、ラインハルトは笑う。
「ただ、これを見ていて……」
『悪の秘密結社の首領』と『正義の味方チーム』の最終対決が続いている画面を指さし、ラインハルトはちょっと生真面目な口調になる。
「一つだけはっきりしたことがある。この手のプログラムは、士官学校や幼年学校の生徒には見せるべきではないな。アレクにも余り見せぬ方がいい」
「陛下?」
やはりゼーフェルト博士の言葉が尾を引いていると言うことか。皇帝ラインハルトが、その名をもってプログラムの観賞を禁じたとなると、影響は大きすぎる。
「―――ご不快かも知れませんけれど、あえて申し上げますわ。宝石の原石は、無数の何の価値もない石の群の中に隠れているものだと言うことを」
不意に表情を引き締めた妻に、ラインハルトは少し驚いたようだった。
「どうしたのだ、ヒルダ」
「高尚なものから低俗なものの、際限のない混淆の中から優れた内実を伴った文化が生まれていくのだということを申し上げたかっただけですわ」
「―――案ずることはない。予が言いたかったのは、宇宙征服を狙うなら秘密結社では無理だろうということなのだ」
「え?」
今度こそ呆気にとられるヒルダ。はっきり言って、ここまで反応の角度がずれてくるとは思っていなかった。
そのヒルダに、ラインハルトは真顔で説き始める。
「秘密結社というものは、自らの存在を秘密にしておくために大変な費用と手間がかかるものだ。秘密を守るための部門が必要だし、そのための費用が必要だ。費用を稼ぎ出すために、組織を拡張しなければならないし、そうするとさらに秘密保持の部門を強化せねばならない。悪循環だな」
「え……ええ、それは、確かに―――でも、ラインハルトさまも最終的にはゴールデンバウム王朝を倒して、宇宙を征服なさいましたわ。ゴールデンバウム王朝の中央は、最後までラインハルトさまの意図を見抜けなかったと、思いますけれど」
「簡単なことだ」
秘密結社など作らなかった。
「最初から予と野望を共有してくれたのはキルヒアイス一人だった。予とキルヒアイスの二人では秘密結社とは言えまい」
思わずヒルダはクスリと笑ってしまう。その後、ロイエンタール、ミッターマイヤー、オーベルシュタインが野望を共有するに至ったとは言え、わずか五人では秘密結社というよりも、むしろ正義の味方チームだ(…元帥戦隊?)。邪悪なゴールデンバウム王朝に立ち向かう五人の勇士といったところか。彼ら五人が正義の味方のコスチュームを着込んで『決めポーズ』をしているシーンを連想してしまい、ヒルダは爆笑の発作を押さえるのに苦労した。

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そういえば、最初は数人から始め、最後は一〇〇人を超える同志を集めて敵を打倒するというような伝説を古い本で読んだような気がする。ラインハルトの偉業は、どちらかといえばこの伝説に近い。
「それは、その通りですわね」
「もう一つ、まずいのは……手段だ」
ヒルダに同意されてラインハルトは勢いに乗ったようだった。たとえ、お子さま向け番組が対象であろうとも、こと戦略・戦術に話題が及べば、『為人<ひととなり>、戦いを嗜む』本来の気質が無条件に発動する。
「例外はあるのかも知れないが、宇宙征服の手段として軍事的手段を用いようとしている。これは非効率すぎる」
「政治的に不安定ならともかく、ある程度安定した政治機構を軍事的に打倒して、支配権を奪い取るのは大変な労力を要する事業ですわね」
子供向けのソリヴィジョン番組相手にそんなに真面目にならなくても……と応答しないのも、ヒルダのヒルダたる所以である。
「一つや二つならともかく、何十もの有人惑星があって、それぞれに一定の自治の仕組みができあがっているのを、一つ一つ制圧していくのでは何百年かかるか分かりませんし、それにその過程で中央政府に必ず気づかれます。と言って、一気に中央政府を倒せるほどの秘密結社では、まず、そういう組織そのものを作り上げるのが困難でしょうね」
つまり、組織論、戦略論、さらに戦術論において『お子さま向き勧善懲悪、悪の秘密結社対正義の味方チーム』番組は最悪の教材なのだ。これから帝国軍を支えようという若手士官の卵たち…士官学校と幼年学校生徒…にとって、これほど学ぶにふさわしくないテキストはないではないか。
力説するラインハルトに、ヒルダはちょっと眉を顰めてみせた。
「うん?」
「組織論的、戦略論的に拙<つたな>い内容であることは分かりますけれど、戦術的にもなにかいけないのでしょうか」
「ダメだな」
ラインハルトはにべもなく言い切って、視線を画面へ流した。
ちょうど、断末魔の叫びを上げた『悪の秘密結社』の首領が『正義の味方』たちに止めを刺されたところだった。
「たとえ戦略で勝っても、戦場で敗れていては意味がないではないか」
「へ……いか」
ヒルダは吹き出しそうになる。何度目の笑いの衝動か、もう分からなかった。
「最初は偉そうなことを言っておいて、結局は正義の味方チームにやられてしまう。つまり正義の味方チームの戦力を軽視している。敵の過小評価は指揮官としては最も忌むべきことだ。それから、番組の途中で計画を感づかれてしまう。三〇分も秘密保持が持たないのでは、奇襲を狙ってかえって奇襲されるだけのことではないか」
「陛下、ラインハルトさま、三〇分でプログラムが終わるのは、リアルタイムで何日も同じプログラムを続けることはできないからですわ……でも、確かに秘密結社を名乗っている割りに、いつも簡単に悪巧みが漏れてしまいますわね」
「だろう?」
あともう一つ……
「所要量に満たない過小兵力の逐次投入だ」
「―――…」
「毎週毎週、あれだけせこい攻撃計画を立てては敗れ去るくらいなら、半年分くらい我慢して、正義の味方チームの五、六〇倍くらいの兵力を一気に投入すればよい。あの程度の小兵力でも、正義の味方を苦戦させてはいるのだ。いくら、正義の味方チームが武器と個人の技量で優れていても、この兵力差はカバーできないぞ」
つまり、戦術的にもまったく褒められた内容ではないではないか、とラインハルトは自信満々に指摘する。
「では、士官学校生徒には大いに観賞を奨励してはどうでしょうか?」
「ほう?」
ヒルダの応答は、ラインハルトの予想の範囲を超えていたようだったが、表情は明らかに楽しんでいた。
「なぜ?」
「反面教材です。組織・戦略・戦術の王道をきちんと教え込んだ上で、こういったプログラムを観賞させ、『悪の秘密結社』が失敗した理由をレポートさせればよいのです。独創的な見解を示す人材を発掘できるいい機会になるかも知れません」
「―――なるほど、今度、ゼーフェルトには話しておいてやろう。いや、士官学校と言えば、管轄は軍務尚書だな」
「―――!」
お子さま向けソリヴィジョン・プログラムを前に、真剣な面もちで話し合うラインハルトとオーベルシュタインの姿が脳裏に浮かぶ。いけないとは思いながらも、ヒルダは遂に笑いを止めることができなくなった。

 



「貴女<あなた>ならどうする?」
ラインハルトからその問いを向けられたとき、ヒルダは何のことかしばらく分からなかった。
父の膝の上でぐっすりと眠り込んでしまったアレクを寝室に運び、ラインハルト自身も着替えと入浴を済ませた後だった。時計は午前零時までにはまだしばらくの間を残した時を示している。
「はい?」
「宇宙征服のことだ」
「宇宙征服?」
この人なら、生真面目な顔で『予と一緒に宇宙を征服しよう』というせりふを口にしてもまったく違和感がない。まあ、プロポーズの言葉にしてからが、これにほとんど近いような内容だった。
「貴女なら、どうやって宇宙征服を成し遂げるか、聞いてみたかったのだ」
先程来の話題を思い出し、ヒルダは頷いた。
「秘密結社を使って……ですか?」
「別に秘密結社である必要はなかろう。貴女なら、いろいろと方法を考えつくのではないかな?」
心の中でヒルダは僅かに肩を竦める。ラインハルトにとって最も楽しい時間が、彼女を相手にしての様々な政治・軍事面でのディスカッションとなって久しい。明日も皇帝と皇妃としての多忙な公務が待っている。ほんのつかの間の休息を最も好ましいやり方で過ごしたいとラインハルトが望むのも無理はない。
グラスを二つ取り、ラインハルトは鮮やかな色彩のリキュールを満たした。一つをヒルダに渡し、口元へグラスを運ぶ。目を細めて豊麗な香りを楽しむ。
「そうですわね……」
ヒルダはちょっと考え込んだ。
「やはり、秘密結社では無理です。それに、軍事的手段での宇宙征服というのは無理がありすぎます」
「なぜだ。予の場合は秘密結社ではないが、ゴールデンバウム王朝も自由惑星同盟も、予の宇宙艦隊が征服した。軍事的な手段による宇宙征服が全く不可能と言うものではあるまい?」
「不可能ではありませんけれど、条件次第です」
ラインハルトの時は、すでに旧帝国内部でゴールデンバウム王朝への不満へ憎悪が発火点のレベルにまで蓄積していた。社会の活力は失われ、はけ口を求めて深く澱んでいた。
ラインハルトの出現は、この漠然とした不平不満と憎悪に一気に点火し、社会の上に厚く覆い被さっていたゴールデンバウム王朝と門閥貴族の拠って立つ基盤を粉々に打ち砕くきっかけとなった。
「予は火をつけただけか?」
「火をつけられる人物が五〇〇年間現れなかったのです」
また、自由惑星同盟でも、いわゆる衆愚政治に陥った政治と、政治の世界で声の大きい者だけが利益を独占する経済の閉塞感に辟易していた市民が、ラインハルトに対して“救世主”的な視線で迎えた面もある。
「……考えてみれば、情けない話ですけれど。何とかできるだけの手段を与えられていたのに、自分たちでは何もせずに救世主や英雄を待ち望んでいたのですから」
「ああ、そうだな……」
旧自由惑星同盟領の平定にはもっと手こずると予想していたラインハルトだった。しかし、実際にはヤン艦隊以外に目立った軍事的抵抗を試みた組織はなかったのだ。
「―――ルドルフの始めた極端な専制のシステムは、軍事的征服には有効でした」
少数の兵力で権力の中枢を制圧すれば、一気に政権の移動が実現する。さらに元々が軍事政権の側面を持つゴールデンバウム王朝である。その中で大きな勢力を得ることは、そのまま巨大な軍事力を合法的に所有することにつながっていく。
経済面でもそうだ……とヒルダはさりげなく、ここしばらくの勉強の成果を披露する。ここ数十年の間に、その境界を薄れさせかけていた金と物の流れは、帝国、フェザーン、自由惑星同盟という人為の境界線を単なるじゃま物として疎ましく感じるようになってきていたのではないか……
「―――つまるところ、ラインハルトさまはたった二人の秘密結社を、ある時期から公然とした組織に切り替えることができたのです。これによって、組織保持のための費用調達の労を省き、同時に秘密保持のための労力も省略できるようになりました」
つまり、宇宙を手に入れるための組織は、一定の規模を超えたとき、公然と姿を現した合法的な組織にならなければならない。公然とした組織となり、社会に根を下ろしてしまえば、逆にその祖機の排除そのものが反社会的行為としての色彩を帯び始めるのだから。
「アスターテ以降、元帥府を開設なさったあたり……から、ラインハルトさまの『悪の秘密結社』は『悪の公然組織』に変身したわけですわ」
「―――なるほど、そうも見られるのか」
『悪の秘密結社』呼ばわりされてちょっと鼻白んだかも知れない。しかし、ラインハルトの目から悪戯っぽい表情は消えなかった。
「それで貴女の結論は?」
ヒルダの応答は短截だった。
「経済的支配」
蒼氷色の瞳が驚いたように瞠られた。
「経済的支配?」
「ええ」
「宇宙を経済的に支配する……というのか?」
「『悪の秘密結社』のお約束ですけれど、彼らは必ず世の中の最先端の技術力を持っていますわ」
くすくす笑いをヒルダは隠さなかった。お子さま向けTVを前提にして、こうも生真面目な話題を繰り広げている自分たちが、どことなく滑稽でしようがない。滑稽に思っていて、なお、のめり込まずに入られないのも不思議で、妙に満ち足りた気分でもある。
「彼らの持っている最先端技術を、最初は特許化し、ある程度の資産が蓄積できれば事業化して自分で儲けるようにしていけば、ラインハルトさまの元帥府に匹敵するだけの組織を作り上げるのも難しくはないですわね」
ラインハルトの治世下の平和で、軍事面への投資が減り、余剰の資本が辺境開発へ向けられている。十分な資本を蓄え、辺境開発に積極的に参加していけば、宇宙のすべてとは無理でも、三分の一以上の人口と半分以上の宙域の支配権を手に入れるのも難しくはない。中央の統治の及ばない辺境の支配と軍事的割拠。『お子さま向き』でない、歴史的な反逆のドラマの基本パターンと言ってもいい。
「―――ただし、『悪の秘密結社』が本当にお金になる先端技術というのを持っているというのが前提ですけれど」
「その方が、あとの統治も楽だな。軍隊、密告者、盗聴のシステム、いずれも何も生み出さぬのに金ばかりを喰う」
「ええ」
「しかし、問題があるぞ」
「そうですわね」
「分かるのか?」
「分かります」
ヒルダとラインハルトは顔を見合わせ、同時に笑い出した。
「これでは『悪の秘密結社』である必然性が何もないではないか」
「人は強制しても動きません。洋服でも、家具でも、帝国製品よりフェザーン製品の方が遙かに品質がよくて、価格も低く抑えられていました。自由惑星同盟でも同じだったと聞いています」
「強制と統制は手抜きを生む……か」
「ええ、武力で力ずくの統治をしても、サボタージュに遭うだけで、統治の為のコストがかかりすぎます。ゴールデンバウム王朝は五〇〇年近く続きましたけれど、ルドルフのやり方で旧帝国が運営できたのはジギスムント一世の時代くらいまででしたもの。あとは、統治のシステムが傾いていくのを、官僚たちが何とか繕って保たせていただけですから」
ラインハルトは大きく息をつき、ヒルダの額に軽くキスをする。
「予に人を見る目があって本当に良かった」
「はい?」
「貴女を敵に回していれば、大変なことになっただろうな。今頃、予はまだ『ブリュンヒルト』で宇宙を駆けめぐっていなければならなかった」
「ラインハルトさま!」
「怒らないで欲しい。第一……」
ラインハルトの声は笑いを含んでいたが、確かに真実の響きを帯びてヒルダの耳朶を拍った。
「第一、貴女を敵に回していたら、予は一生、独身で過ごさなければならなかったではないか。考えてみると、それが一番、恐ろしい」
相変わらず余り上手いとは言えない冗談に託された真実の想い。ヒルダは頬が熱くなるのを実感して、思わず声を高くする。
「おからかいにならないで下さい!」
ラインハルトは微笑う。芯から嬉しそうに。
「からかってはいない……貴女は怒った顔もとても美しいな」
帝都<フェザーン>の夜に闇が降り積もり、横たわる双子の天の川<トゥイン・ミルキーウェイ>がその輝きを増していく。皇太子アレクサンデル・ジークフリード立太子式典は、この一〇日後だった。

(『悪の秘密結社に関する一考察』 Ende )

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