金髪の孺子と赤毛のボウヤとその彼女達

銀英伝ライキルでその嫁との妄想にふけたり、我が国のミリな制服や乗り物に萌えるブログ(のハズ)

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++++マイム・マイム++++猫屋 真

2003年のライキル強化月間にいただいた小説(笑)
あまりにもツボだったので、漫画を描いてしまったモノ。
2003/08発行の You are My Shining Star という本です。

ちなみに原作基準で、
帝国歴484年4月から(外伝「朝の夢 夜の歌」)
翌485年3月(外伝3ヴァンフリート星域会戦)までこの二人の空白の時間があるのですが、
その間、猫屋さんちではそのあたりを補完すべく
イゼルローンで巡航艦『ノルデン2』の艦長になって活躍し、
准将になる武勲をあげるお話を書いておられます。
幼年学校殺人事件(笑)からグリンメルスハウゼン艦隊に配属される間の
17歳あたり。

そんな裏?設定なお話です。


     

「随分、少ないな」
ひとりごちるキルヒアイスの前に、どちらかと言えば小振りなスーツケースが置かれていた。いずれも古びて埃にまみれた小物類が、十分の隙間をもってその中に詰められている。ガラスのひび割れた写真立ての中の写真はすでに色褪せ、三人、または四人の人影が、まるで幽霊のように透かし見えるだけだった。かつてはアルバムであったらしい冊子は、中の写真のほとんどが抜き取られ、何度も液体…おそらくは酒をくぐった台紙は波打つようにでこぼこになり、縁もぼろぼろに欠け落ちている。

ラインハルトの父セバスチアンの死後、その父の遺品を処理したのはラインハルトとキルヒアイスだった。二人の子供たちが家を出た後も、セバスチアンは、彼の終の棲家となった借家…すなわちキルヒアイス家の隣家…から離れようとはしなかった。アンネローゼを"売り渡し"て、それなりの大金を手にしたにもかかわらず……である。
「ひどいな……これは……」
一度だけ検分に出向いた時、キルヒアイスはさすがに眉を顰めたものだった。
家を移るどころか、セバスチアンは自らの住まいの維持にさえ、ほとんど意を払わなかったのは明らかだった。
「何も残さなくていい。あとを頼む、キルヒアイス」
かつての自宅の惨状を一瞥して、ラインハルトは唇を歪めた一言をキルヒアイスに投げただけで、そのまま踵を返してしまった。
困ります……と言おうとして、キルヒアイスはラインハルトの正しさを認めた。居室と、セバスチアンの寝室を占領し尽くした酒瓶を中心とする塵芥の大群を、一つ一つ始末するには、彼らには時間がなさ過ぎた。
キルヒアイスはサービス業者を探し出し、"明らかに故人の家族に関する遺品と想われるもの以外はすべて処分してください"と依頼した。その結果が届けられたのは、幼年学校での事件を解決してリンベルク・シュトラーセへ戻って間もなくのことだった。
「適当に処分してくれ。俺はそんなモノ、見たくもない」
ラインハルトは、にべもなく言い捨てて自分のベッドルームに引き上げてしまった。共用の居間に置いておくわけにもいかず、キルヒアイスは遺品の詰められたスーツケースを自室で開くしかなかったのだ。
"明らかに故人の家族に関する遺品"には違いないだろうけれど、これではあの家の床を埋め尽くしていたゴミの山と大して違いはない。スーツケースの中身を整理しながら顔をしかめたキルヒアイスだったが、ふとその手が止まる。
「これは……」
古ぼけて錆に覆われた小さな金属製の小箱だった。かつては鍵もかけられたのだろうが、赤毛の若者がちょっと力を込めると、さして抵抗する出もなく蓋が開く。金属が軋み合う音が意外に高く響いたのか、ベッドルームのドアがノックされた。
「何やってるんだ、キルヒアイス?」
「さっきの荷物です。捨てるしかなさそうなものは捨てようと思って、中身をチェックしています」
「貧乏性だな、お前は」
入るぞ、と一応断ってから、居間の光を背景にラインハルトの長身がシルエットになって見えた。ライティング・デスクの上で蓋を開かれたスーツケースを一瞥し、いかにも厭わしそうに小鼻の横に小さく皺を寄せるたが、その仕草でさえ、この若者の類い希な美貌を損なうものではなかった。
「そんなもの、とっておく必要なんかないぞ、スーツケースごと捨ててしまえ」
「でも、写真だとか、アルバムらしいものもありますから……何もチェックしないで捨ててしまったら……」
「だから、捨ててしまえって言っているだろう」
やや息を荒げてラインハルトは決めつける。言葉にこそしなかったが、こう言いたかったに違いない―――"あんな男が一緒に写っている写真なんか、残しておく必要なんかない!"。
「そうですね、写真にしてもほとんどが褪色して、何が写ってるのかわけが分かりませんから。ざっと見て、何かあったらご相談します」
「相談なんか、必要ない」
頑なな口調でラインハルトは繰り返す。
「どうしても残したいとお前が思ったなら、お前が持っていろ、キルヒアイス。俺に一々相談しなくてもいい」
「でも……」
「この話は終わりだ。そんなことで夜更かししすぎるなよ」
「はい、気を付けます。お休みなさい、ラインハルトさま」
「―――」
赤毛の親友とスーツケースを往復した蒼氷色の視線が一瞬、不審そうな色合いを帯びたが、父の遺品を目にしている不快さが興味を上回ったようだった。
ぷいと視線を逸らし、くるりと踵を返したラインハルトの姿を、閉じるドアが覆い隠す。見送ったキルヒアイスの視線が巡って、さび付いた蓋を開いたばかりの金属ケースに注がれた。


★★★


同時代においても後世においても、ジークフリード・キルヒアイスに対する評価に共通して現れるのは"穏和"と"温厚"である。ラインハルトが評したような、"ゴミの中を覗き込んでも、そこに美を見いだす"は極端にしても、キルヒアイスという人物の性格に、偏狭さや狷介さという要素を見いだすのは極度に困難だったことも確かだった。
だが……
ラインハルトが大佐の肩書きを帯びて巡航艦『ノルデン2』艦長の席を得た一日。
『ノルデン2』の下士官居住区を見回っていたキルヒアイスの聴覚を、憎々しげな調子を帯びた声……というより罵声が刺激した。
「なんでぇ……あの、ちゃらちゃらした金髪の坊やはよぉ。あんなのが、今度の艦長だってか、冗談じゃねぇぞ」
「どうせ、大貴族のお坊ちゃま様だろうぜ。二〇にもならねぇで、大佐様、だと。同盟の戦艦に一発喰らった途端に、びびって腰抜かしちまうぜ、あれじゃぁよ」
「そりゃそうかも知れねぇが、問題なのは、腰抜かして貰って困るのはおれたちだってことさ」
また、これか…キルヒアイスはいささか暗澹たる思いだった。
武勲がもたらす、より高い地位はより困難な任務とより多くの部下を持つことにつながっている。
戦場生活の長い下士官や兵士たちは、上官の有能無能に殊に敏感である。無能な上官は、そのまま自分たちの戦死に直結するからだ。
類い希な美貌が半神的な信仰を集めるには、まだラインハルト自身が若すぎたし、年齢の割に高い地位を得ているとは言え、一介の大佐では無名と言っても差し支えない。兵たちが、ラインハルトの姿形だけを見て、その能力に疑いを持っても、ある意味、しかたがないとも言えるのだ。
聞かなかった振りをして通り過ぎるという手もあったが、下士官たちにラインハルトへの反感を抱かせたままでいるのは好ましくなかった。なんと言っても、実質的に艦を動かしているのは彼らなのだから。
わざと足音を響かせて歩み出たキルヒアイスの姿に、たむろしていた数人の男たち…肩章が彼らがすべて下士官であることを告げていた…の視線が一斉に固定する。
「……! 気をつけい(アッハトゥング)!」
先任らしい一人が叫び、軍靴の撃ち合わされる音がそれに続いた。
キルヒアイスは、ゆっくりと一同の顔に視線を走らせる。
歳はよく分からなかった。いずれも獰猛と言いたいほどにふてぶてしい顔つきにまずいところを聞かれたという表情の一方で、それがどうしたという開き直りがあからさまだった。頑丈そうな体躯の幅はキルヒアイスの倍はありそうだが、訓練を怠っているのか筋肉のたるみが目立つ。
「今、ミューゼル艦長の名誉を著しく損なうような会話が聞こえたのですが?」
「いいえ、とんでもありません、艦長副官殿! 美しきミューゼル大佐を艦長として迎え、まことに恐懼の極みであります!」
先任の下士官が取り繕ったような真顔でしらばくれる。他の男たちも一斉ににやにや笑いを浮かべ、それからキルヒアイスの視線に気づいたように、もう一度顔を引き締める。
質問を許していただけますか……と、その中の一人が進み出る。
「小官らは新たな艦長を迎えるにあたって、歓迎式について話し合っておりました」
「なるほど…」
「歓迎の式次第を定めるに当たって……艦長副官殿に質問があります!」
「どのような?」
あえて微笑みながら、キルヒアイスは全身の筋肉を引き締める。毎度のことながら、彼らが火ぶたを切ってくるとすれば、このあたりだ。
「ミューゼル艦長の戦歴であります」
「うん?」
ラインハルトか、あるいは彼自身に対する当てこすりか罵声を予測していただけに、キルヒアイスの反応は半拍遅れた。

「……、…………、……?」
最初、彼にはそれが言葉として聞こえなかった。
キルヒアイスの怪訝な表情に気づいたらしい、件の下士官はもう一度ゆっくりと同じ言葉を繰り返す。嘲りとも憤りともつかない調子のだみ声が明瞭な言語の形となった時、キルヒアイスは全身の血流が逆流するのを感じた。
これまで様々な言葉で罵倒や挑発を受けてきた彼だが、これほどまでにラインハルトと、そしてアンネローゼを貶め、侮辱する言葉を、彼は他に思いつかないほどだった。
一瞬のうちに髪に劣らぬほどに頬を染めたキルヒアイスに、男たちは言葉の効果のほどを確認したらしい。もはや謹直な表情を取り繕おうともせず、すれからしたにやにや笑いが彼らの表情を覆った。
「そのように上官を侮辱することは、明瞭な軍紀違反ですが、承知していますか」
「いいえ、小官らは艦長への賛辞を申し上げただけで、侮辱する意図など毛頭ありません」
しれっとした表情の下に"腹立てたなら、腕力で来い、このガキめが"という露骨な嘲笑が透けて見えた。
うなずき、キルヒアイスは一歩を踏み出す。
お……という顔つきになった下士官たちが身構える前に、キルヒアイスの赤毛が焔のような尾を引いて走った。

「馬鹿野郎、また一人でやったな!!」
医務室に駆け込んできたラインハルトの第一声がそれだった。頬や額にゼリー・パームを貼り付けたまま、キルヒアイスは苦笑する。
「ええ、今度はちょっと相手が多すぎたようです」
「相手は誰だ。どうせ、また俺や姉上のことを誹ってたんだろうが!?」
「大丈夫です。相手だって無傷じゃありませんし、士官と下士官のケンカなんてあってはならないことですから。艦長の口を出すことじゃあありませんよ」
「馬鹿を言うな」
ラインハルトは激昂する。怒っているのは、下士官達が士官であるキルヒアイスを殴りつたことに対してのように見えるが、実はそうではない。要するに、キルヒアイスとは常に一心同体でありたいと言う思いから、キルヒアイスがひとりですべてを処理してしまったのが気に入らないのだ。
これまで、昇進し転属するたびに、露骨に示される下士官や兵たちの反感を腕力で抑える必要もあった。そんなときは必ず二人で力を合わせて立ち向かってきたのも事実なのだが……
「ラインハルトさま、お聞き下さい」
「何をだ?」
「この船に何人の兵が載っているとお思いですか?」
「定員一一八名。見習い士官と兵を含めて一二六名と聞いている」
一瞬の遅滞もなく、すらすらとラインハルトは答える。
「今は一二六名がラインハルトさまの部下です。でも、すぐに一個戦隊、一個艦隊を指揮されることになるはずです」
一個艦隊ともなれば将兵は一〇〇万人を超える。そのような地位に就いたならば、ラインハルト一人、いやキルヒアイスと二人ででも、すべての将兵の動向に目を行き届かせることができるはずはない。いすれ、信頼できる部下を多く抱えて、彼らの裁量に多くを委ねなければならなくなるのは自明だった。
部下を信頼して任せる、その第一歩として……
「……ですから、彼らの処罰は私にお任せ下さい」
「おい、キルヒアイス」
さすがにラインハルトはキルヒアイスの論理には乗らなかった。
「俺は、今日、お前を殴った連中の話をしているんだぞ」
「わたしでも信頼して頂けませんか?」
「そう言う話じゃない。お前は優しすぎる。どうせ、連中にも一分の理があったとか何とか言って、適当な処分で済ませるつもりだろう。いいかキルヒアイス、お前は俺の半身だ。お前を殴ったということは、俺を殴ったのも同然なんだ」
キルヒアイスは微笑んだ。
「では、わたしに殴られた彼らは、ラインハルトさまに殴られたも同然ですね」
すかさず切り返され、ラインハルトはうっと詰まる。
「殴り合ったことでは一応お互い様ですし、まあ、わたしが一方的に借りを作ったわけでもないですから、今更もう一度、腕力に訴える必要もないと思います。ただ……」
「ただ……?」
もう一度、キルヒアイスはにっこりと鋼の靱さを思わせる笑顔になる。彼の上官と、彼の心の聖域に住む女(ひと)を侮辱した連中が、なぜ一転してラインハルトには畏敬と敬愛の視線を、キルヒアイスには畏怖と服従を示すようになるのか、ラインハルトには知らせずに済ませようと思っていたが、ここは仕方がない。
「上官侮辱の処罰は明朝に実施します。立ち会って頂いた上で、わたしの処罰が手ぬるいものかどうか、ご判断下さい。お立ち会い願えますか、ラインハルトさま?」
キルヒアイスの笑顔が、なぜかラインハルトの首筋にチリチリした感覚を味わわせる。何故かは分からないが、踏み込んではならない罠の中に、自ら好んで踏み入れていくような……艦隊戦のシミュレーションで、敵の伏兵を承知の上で艦を進めていく時のような、理由のない直感がラインハルトに危険を囁いてくる。
ためらいを振り払うようにラインハルトは大きく頷いた。
「もちろんだ。場所は?」
「艦の第二トレーニング・ルーム。時間は、午前一〇時の予定です。きっとご納得頂けると思っています。
キルヒアイスのついた溜息が、ますますラインハルトの表情を混乱させたようだった。
「分かった、必ず立ち会う」

★★★

翌日、午前一〇時。
『ノルデン?』の第二トレーニング・ルームに赴いたラインハルトは、すでに一列に並んで処罰を待つ下士官たちを目にして、軽く目を瞠った。
人数は七名。いずれも顔をゼリーパームや包帯で覆われ、その惨状は昨日のキルヒアイスの比ではない。相手が七人もいたのでは、さすがのキルヒアイスも手加減している余裕はなかったということらしい。
この時間帯は艦搭乗員のトレーニング時間でもあり、彼らの他にもランニングやウェートトレーニング、機械体操に取り組む兵たちの姿は軽く二〇名を超えている。
「気をつけい(アッハトゥング)! 艦長に敬礼!!」
ラインハルトの到着を確認したキルヒアイスが、良く通る声で号令する。ラインハルトに向けた七人の下士官の敬礼は見事なもので、かれらがいずれも歴戦であることをうかがわせるに十分だった。
キルヒアイスが続けた。
「ミューゼル艦長立ち会いの下で、貴官らの上官侮辱に対する処罰を行う」
七人が不敵そうに薄ら笑いを浮かべる。筋肉にかなりたるみを見せている者もいるが、歴戦の彼らにしてみれば一〇代の小僧が考えつくような処罰など、何ほどのこともないに違いない。
―――キルヒアイス、一体こいつらにどんな処罰をするつもりなんだ。
ラインハルトの疑問を余所に、キルヒアイスの命令が続く。
「円を作ってならべ」
「……!?」
「互いに腕を組みなさい」
ぎょっとして互いの顔を見交わす下士官たちに、キルヒアイスは容赦なく浴びせる。
「どうした、さ、早くお互いの腕を組みなさい」
「……な……何をするのでありますか?」
「質問は許しません。わたしの命令が聞こえませんでしたか?」
言葉遣いが穏やかなだけに、一層怖い。
軽い悪寒を覚えたのは下士官たちだけではなかった。
―――キルヒアイスのやつ、本気で怒ってるぞ……
初めて、ラインハルトは、処罰される連中に微かな同情を覚えた。
七人がしぶしぶ腕を組む。
キルヒアイスが胸元のマイクに向かって指示を与えると、トレーニング・ルームの中に何とものんびりした調子の音楽が流れ始める。明らかに幼稚園や保育園で、園児たちのお遊技に使われるダンス曲だ。
音楽と、互いに腕を組み合わせた逞しい男たち七人という、その何とも変梃な光景に気づいた他の兵たちが、トレーニングを中断して好奇の視線を送り込んでくる。
その視線の交錯するど真ん中、キルヒアイスの声が最後の審判さながらにとどろき渡った。
「わたしがよろしいと言うまで、曲に合わせて踊ってもらいます」
「お……踊る!?」
「ええ。フォークダンスです」
にっこり……と笑うその笑顔に、男たちは悟ったようだった。おとなしやかな外見に騙されて、自分たちが猛獣の、赤毛の高貴な猛獣の尾を弄んでいたことに。そして、この青年に絶対の忠誠を捧げさせている、あの金髪の士官がどのような人間であるかということも。
「間もなく、歌が始まります。そうしたら、踊り始めて下さい。踊り出せなかったら、時間を延長します」
そして、歌が始まった。
『マイムマイムマイムマイム、タラッタタタッタッタ~♪』
音程のちょっと外れた、しかし、綺麗に透き通った男の子の声がトレーニング・ルーム一杯に響き渡る。
男たちは硬直したまま動けない。
その背を、キルヒアイスの大声が突き飛ばした。
「踊りなさい、ぐずどもぅっ!」

『タンタンタンタン、タラッタタタッタッタ~♪』
男の子の歌声が、時に大きく外れながらも続く。七人の男たちは必死に歌声を辿って、太い腕を振り、ごつい足でステップを踏み始めた。
本人たちは必死だが、見ている方にしてみればもはやトレーニングどころではない。たちまトレーニング・ルームは爆笑の渦に包まれた。ある者は走路に突っ伏し、ある者はベンチプレスのベンチの上で腹を押さえてうずくまって笑いの発作に耐えている。
『マイムマイムマイムマイム、タラッタタタッタッタ~♪』
男たち、踊り続ける。屈辱と、馴れない身体の動きに真っ赤にゆであがりながらも、懸命に踊り続ける。
その時……
「―――キ~ル~ヒ~ア~イ~ス~!!」
「なんでしょう、ラインハルトさま」
地獄の底からわき上がってくるような友人の声を、キルヒアイスは"無敵スマイル"で迎える。
なぜか、ラインハルトの白晢が、髪の付け根まで真っ赤に染まり、額には冷たい汗がびっしりと浮かんでいた。
「この歌……どこで手に入れた!?」
「……とある廃屋から出た、がれきの山の中からですが?」
「これは俺の声だ!!」
しれっとした表情で告げるキルヒアイスに、ラインハルトは必死に声を抑えながら言い返す。
「ええ、知っています。でも、ラインハルトさまとわたししか知りませんから、ご心配には及びません」
「そう言う問題じゃないだろう」
「ええ、そう言う問題じゃありませんが……」
「お前、ひょっとして、これまでも……」
「ええ、時々は」
キルヒアイス、にっこり"無敵スマイル"。ラインハルトは絶句する。
「処罰にご納得頂けましたか?」
「……」
どうやら無限リピートになっているらしく、歌が繰り返し繰り返し続いている。のんびりしたメロディと可愛らしい男の子の歌声に合わせて、腕を組んでフォークダンスを踊る、傷だらけの男たち七人。とてもフォークダンスなどという代物には見えず、ひたすら手足を振り回し、痙攣しているようにしか見えなかったのも事実だが……一切の理解を拒絶した、奇妙なまでに現実離れした光景だった。
ラインハルトはこくこくと頷く。
「分かった。お前の言うことももっともだ。今後は気を付ける……ただ」
「ええ、もう一人でケンカを買うようなことはできるだけ控えます。それで、よろしいですね」
「こいつ、そうそう先回りばかりされたら、俺の言うことがなくなってしまうじゃないか」
「済みません」
ご納得頂けたなら、これ以上の立ち会いは無用でしょう……キルヒアイスの勧めに従って、ラインハルトは艦橋に戻るために踵を返しかけ、思い出したように振り返った。
「教えろ、キルヒアイス。あの歌をどこで手に入れた?」
「ラインハルトさまが下さったのです」
「な……んだって?」
「処分は任せる、と仰有いましたよね。お父上の遺品を」
「何だって?」
残すようものはほとんど何もなかった。わずかに、保存用のケースに大事に仕舞われたビデオ・ディスクが何点か、無傷で残っていただけだった。その中の一つに付されたラベルが、曰く『ラインハルト、幼稚園遊技会にて』。
首を振り、ラインハルトは肩を竦める。感情にまかせた一言には違いなかったが、処分を任せるとはっきり言い切った以上、それを今更撤回するなどと言うのは、彼のプライドが許さない。
「他のことには使うなよ」
『タンタンタンタン、タラッタタタッタッタ~♪』
曲と歌、踊り続ける男たち、渦巻く爆笑……ラインハルトの背後で、シュールな光景を分厚い耐圧ドアが封じ込めた。

★★★

そして時が流れ、年月が過ぎ……
「ラインハルトさま」
その夜、ラインハルトはキルヒアイスが取り出したものを目の当たりにして硬直した。
「結婚披露宴では、新郎と新婦の子供時代の写真だとかビデオだとかを披露するという週間があるそうですけれど」
ビデオ・ディスクに貼られたラベル『ラインハルト、幼稚園遊技会にて』が、ラインハルトに恐慌(パニック)を起こさせた。
「ま、待て、キルヒアイス、それは拙いぞ。それだけは……」
「でも、ラインハルトさまの子供時代の写真ってすごく少ないですから……」
「だからと言って、そんな古傷を持ち出すな。俺が音痴だとフロイラインに思われたらどうするんだ!?」
ラインハルトが別に音痴でないことは、幼年学校時代を共に送ったキルヒアイスには自明だった。絵画と同じく、ラインハルトの歌や演奏は『正確だが、芸術的なセンスや閃きは皆無』と表されたのだから。
「でも、偉大な皇帝陛下の意外な幼年時代ということで、皆さんは一層、ラインハルトさまへの敬愛の念を深めるかも知れませんよ」
「……ったく、ああ言えば、こういう……」
うなり声を上げ、そして、ラインハルトは言う。お前、いつからそんなに意地悪くなったんだ、と。
「ラインハルトさまがフロイライン・マリーンドルフと巡り会われてからですよ。ラインハルトさまのお守りを一人でしなくても良くなりましたからね」
「こいつ!!」
冗談半分に拳を振り上げるラインハルトの鼻先に、ひょいとビデオ・ディスクを差し出す。
「お持ち下さい。もう、これを上官侮辱の処罰用に使うこともないでしょうから」
口の中でもごもご呟きながらディスクを受け取り、ラインハルトはちょっと遠い目になってラベルに指を走らせる。手書き文字はかすれ、もう誰の筆跡かも分からない。
「あの男が……こんなものを……」
マリーンドルフ伯爵令嬢(フロイライン・マリーンドルフ)ヒルデガルトとの結婚式を明日に控えた夜のできごとである。

Das Ende


ライキル月間に寄せてということで、かねて構想中(?)だった、ダブル・パロディを(またしても勝手に)お送りします(いえ、確かに南さんからは“ライキル月間用に面白いのを一本”とご依頼頂いたような気が…気のせいかも…?)。あえて『ダブル』と断らせて頂いているのは、現在、猫がちょっとはまっている津守時生さんの『三千世界の鴉を殺し』(新書館・ウィングス文庫)からのエピソードが些か入っているからです。いや、名前からしてうさんくさいなぁと思っていた『三千世界の鴉を殺し』ですが、読んでみると、もうこれが抱腹絶倒、通勤途中の電車の中なんかで読むと、顔が歪みそうなのを押さえるのが大変。まず、こちらのエピソードを使いたい、というのが話のきっかけです。ドイツ・サッカー・ナショナルチームの、かのオリバー・カーンにも少し入って頂きたいということもありまして、こういう話になりました。コメディではありますが、初めてヒルダもアンネローゼもからんでこない、純粋にラインハルトとキルヒアイスだけのお話になりました。ライキル月間に寄せるには、まあそれほど的はずれではないかも、と。
そのメイン・エピソード、最初は、ラインハルトではなくてアンネローゼの歌の予定。でも、皇帝の寵姫の幼女時代の歌を処罰に使ったというんじゃさしさわりありすぎなんで、急遽ラインハルトの歌に切り替わりました。もう少し、シリアスな方向へも掘り下げの効くエピソードではあると思っています。実は、キルヒアイスはもう一枚ビデオ・ディスクを見つけ出していたのですが、そちらの内容は…それは秘密です(ハァト)。

猫屋 真<USF広報室>



猫屋さんにお願い(おねだり??)しておいたにもかかわらず、アップしたのが3月末では、殺されそうです(爆)
筋肉漢達のフォークダンスが描きたかったので、カットをあげてから…とか思っていたらば、もう4月に入ってしまうよー!ってなワケで、先に小説をアップします。(って、カットは何時になるんだか…?)←結局描けなくてそのかわり本になったのだ(笑)
でも、猫屋さんとこのキルヒは、結構怖いですよね(笑)
もちろん、キルヒがひそか~に保管しているお宝ビデオ・ディスクは…誰が何と言おうと、姉ローゼの幼少のモノに違いない!と、確信する次第でございます。(笑)

南秦広
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